赤い逃亡者

ベニカミキリ


「こりゃあ、おまん待ちやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


ついつい声を荒げてしまうがは、あの赤い虫のせいながですちや。知らない方がご覧になられたら鮮やな赤い色合いに、ああ綺麗な虫だこと、やっぱり緑の多い田舎はイイわね...などと、思わず笑みを浮かべながら見入ってしまうかも知れませんぞね。


けんど、実は何を隠そう竹の世界では、ちっくと困った害虫。名前をベニカミキリと言うがです。木と同じようににも竹を専門に食べる虫というのがおりまして、主な竹の害虫はこのベニカミキリとよく似ていて、黄色っぽい色に黒い虎模様が入っているタケトラカミキリ、そして、チビタケナガシンクイムシなどがおるがです。


小さな身体のチビタケナガシンクイムシは、竹笊など細かい竹細工などの竹ヒゴも食ったりするし、本当に小さな小さな虫やのに、その竹を食べるパワーは意外と強力で食べられてしまいやすい旬の悪い竹やったら、大きな竹でもボロボロになってしまう事もある程ぜよ。久しぶりに竹製品を動かした時などに目立った穴もないのに、竹の粉が落ちちゅうような場合はだいたいこのチビタケナガシンクイムシと思って間違いないがです。それに対して今回のベニカミキリは、身体も数センチと大きいですきに竹に空ける穴も大きくて主に身の部分の厚い孟宗竹などを好んで食べますけんど、体長がある分、竹に開ける穴も大きくて、こじゃんと目立ちます。まっこと、やっかいな虫ながです。


さて、今日見つけたベニカミキリも、ちょうど好物の孟宗竹の上。赤い色合いは、すぐに目に付きますきに指で掴もうとしたら、


......スルリ。


こちらの動きを察してか、なかなか敏捷な動きちや。今度こそと思うて指を伸ばしても、


......スルリ。


写真を撮ってたのがマズかったのか、そうこうしている内に竹と竹の間に入ってしもうて見えなくなりましたぞね。ほとんどの竹細工の場合には、これらの虫の害を最小限にするために旬の良い時の竹を使う事や、炭化加工という高温と圧力で蒸し焼きにするなど竹の管理に注意する他にはないがです。せっかくの竹を虫に食われる事には毎回泣かされますけんど、心のどこがでは、まあ自然の摂理やきにと思うて憎みきれないところもあるには、あるがですちや。


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