いつの頃やったろうか?かなり小さい時の事ですけんど、一人で探検の旅にでかけた事があったちや。そこは、大きな大きな体育館のような建物。ツギハギだらけのトタン屋根。何本も立てられちゅう柱は真っ黒なコールタールを塗った木製の電柱。そこに、まるでツタが絡まるように複雑に、白い電気のコードが伸びちょります。
静まりかえった薄暗い建物の奥に一歩、又一歩と進んでいくにつれ、かすかに甘いような、なんとも言えないエイ香りが漂いよりました。まっこと、こりゃあ迷路やにゃあ...。テレビか映画で見るような秘宝を探して洞窟をさまよう主人公の気分ぞね。その通路の両側には、見上げるような高さの竹がズラリと並べられ、少し広くなったスペースがあったかと思うと長さを揃えた竹の束がビッシリと小山のように積み込まれちゅう。
ずっと真っ直ぐ行った所に、ちっくと明るい光が差し込む場所がある。足早に近づいてみたらそこの天井の一部分がプラスチック製のトタン屋根になっていて淡い光はそこから入ってきよりました。遠くから見たら何か青く輝きゆうように思えたのは、所々に赤茶色の錆のついた竹割り用の大きな鉄の塊のような機械やったぜよ。ここは、日曜日で誰もいない竹虎の工場の中。後ろを振り返ったら入って来た入り口は、遙か向こうに真っ暗い中にポツンと小さく見えよります。祖父の後をおいかけて思い切ってここまで来たけんど、急に心細くなってから、
「おじいちゃーーーーーん!」
後にも先にも行けなくなってから、泣きそうな声で叫んでみましたけんどどこにも届いてないようちや。誰も何の返事もしてくれんがです。どうしようかと立ちすくんじょったら、
タタタタタッ............。
「ええっ!!!!!」
タタタタタッ............。
こりゃあイカンぜよ、泣きゆう場合やないきに。暗がりから何かが近づいてくるっ!?身構えちゅう自分の前に走って現れたがは、祖父の愛犬、シェパードのアトマやったぜよ。尻尾を振ってグルグル自分の周りを飛び跳ねゆう。その後から、ゆっくり虎竹を片手に祖父もやって来て、黙って、ニコリ。幼い日の竹虎四代目の冒険は終わったがです。
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