竹屋の四代目に生まれて

安和駅


虎竹の里は昔から交通の難所と言われよりましたので、ここに来る海岸線は断崖絶壁。幾つものトンネルをぬけながら汽車は走って行くがぜよ。ここ十数年も安和駅から汽車に乗ったことはないけんど、たまに汽車でゆられてやってくるお客様は、風光明媚な景色の事を必ずというて良いくらい褒めてくれますぞね。


日本唯一の虎竹が育つ、この谷間をつらぬく、この線路からおばちゃんは嫁いで行きました。ワシの幼い頃、この場所からモクモクと煙をあげて走る真っ黒い大きな汽車に乗って、あのトンネルに吸い込まれるようにして遠く知らない町に嫁いで行ったがです。あの日の安和駅には、おじいちゃんも、おばあちゃんも、父も母も、おじさんも、おばさんも近所の人たちもいっぱいやった。小さな駅舎のホームには人があふれちょった。


皆で手をふった。汽車が見えなくなっても手をふりよった。蒸気機関車の煙が消えて、いつもの静かな虎竹の里に戻ったら、キラキラ光る海から波の音が聞こえてきた。あんな温かい安和駅にもう一度してみたいにゃあ。あんな優しさに包まれた日は又来るろうかにゃあ。ここに来る度、いつもそう思うがです。


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