ずっと昔から憧れのように思いよったお店に「瓢亭」があるがです。もともとは何かの雑誌に紹介されちょった料理の美しさにビックリしたのが始まりやったです。とにかく京都にあるという事以外は何ちゃあ知りませんでしたが、創業400年という長い長い歴史、趣と風格ある数寄屋造りの建物、知れば知るほど凄いお店やと思うて一度は行ってみたいと思いながらもなかなか敷居が高そうなきに自分のような田舎者はどうも気後れしてしもうちょりました。
それが、ひょんな事から、たまたま瓢亭さんにお伺いする機会を頂いてまっこと(本当に)嬉しいやら緊張するやら、大変な面持ちで門をくぐることになったがです。
ところが、ご用意頂いちゅう一室に行くまでの間に今までの張りつめた気分がスッーと軽くなって、こじゃんと(とても)リラックスしてくるがです。年代を感じさせる木と竹を多用した庵。池の水の音、薄く灯る灯籠の明かり。歩いていくうちに、どれもこれも妙に心を落ち着かせてくれましたちや。シンシンと冷える寒い日やったがですがお茶室のようなお部屋に通されるとぽかぽかと温かく、心まで温もる気がしたがです。
出していただく料理は、そりゃあもう何年も何年も前から来たかったお店ですきにまっこと美味しく、楽しく頂きましたぞね。とくに、瓢亭卵は、なるほど有名なだけありますちや。あんな卵は始めて食べさせてもらいました。まあ、竹しか知らんワシですけんど食べ物を通して、手間と時間をかけて人をもてなす言う心にまっこと(本当に)感動した一夜やったです。
そして、この瓢亭さんで使われちょりました竹製おしぼり入れ、ややっ!?料理の美しさと美味しさにばっかり目を奪われちょったけんど、なんと、なんと、なんと、日本唯一の虎竹やいかっ!?
「まっこと、オマン、この瓢亭さんで何をしうゆがぜよ?」
思わず聞いたら虎竹おしぼり入れが言います。
「誰にモノを言うとるんや、何十年も前からココで働いとるのや」
年期の入った素晴らしい逸品に声が出んなりましたちや。
こりゃあ、参った、参った。そう思いなが外の離れにあるお手洗いにいってふと右手の隅をみたら、ええっ!?また、また仰天!!!瓢亭さんらしく瓢箪の形に編んでもろうたいう花籠もなんと、虎竹製ぜよ。あれっぱあ一回でも来てみたいと思いよった瓢亭さんに安和の虎竹の里の竹たちが、もう、ずっと何十年も前から来て活躍しよった......。
けんど、考えたら当たり前のことぜよ。竹虎の歴史も今年で117年、ずっと、ずっと前から続いてきちゅう。ひよっ子のワシらあまっこと(本当に)まだまだ何ちゃあ知らんと同じながやき虎竹の山だしは、今まさにシーズン中。虎竹への敬意と、守り続ける誓いを、虎竹の里で竹と生きた先人への感謝を、細い石畳を歩きながら改めて強く心に刻んだ夜となったがです。