職人の五本指

腕時計


今でも竹の事は知らないことばっかりやけんど、入社したての右も左もさっぱり分からなかった頃、それでも仕事をまかされて職人さんと山へ入りよりました。みなさん、山へ入ったら時計はないがですよ。そうです、ご存じの通りぜよ。今みたいに携帯電話らあなかったし時間を知る術がないがです。


ええ?太陽の動きで分からんか?まあ、朝、昼、夕方ばあの事は分かりますけんど...。


ええ?切り株の年輪で分かる?そりゃあ、オマン、方角やろ...。


まあ、そんなんで時間を知るのは腕時計が頼りの綱ながですが、竹屋の仕事は炎天下でも、雨の中でも、風が吹いても外でガンガンやるがです。水、ホコリ、衝撃...。時計が狂う要素がいっぱいで、実は一回、山に入っていて1時間も時計が遅れちょって、会社に帰って来たら宅急便の時間に間にあわずお客様への荷物が送れなくて、こじゃんと(とても)づかれた(怒られた)事があるがちや。


腕時計を買うてはダメになり、買うてはダメになる。その繰り返しで時計を何回買い替えたか忘れるばあやった。そんな時に出会ったのがこの時計ながです。ワシはブランドには全く興味がないきにローレックスというこの時計の事も知りませんでした。けんど、このメーカーの王冠のマークを「実は、職人の五本の指を表しているのです」こう聞いた瞬間に買うことを決めたがちや。ずっと竹虎の仕事をしてくれゆうおばちゃんの手を思い出したきに!


ところが、値段を聞いてたまげたが違う。なんじゃあ、そりゃあ~~~~~~~高いにゃあ!よう買わんぜよ思いよったら、たまたま知り合いがどこやら海外へ旅行に行くゆうきに、免税店やったら安いと教えてもろうて頼んで買うてきてもろうたがですきに。


買うてきたもろうた時計を腕に付けてみたなかなかエイ!一つの金属の塊をくり抜いて時計にしちゅうだけあって防水機能もバッチリやし時間も狂うこともなくなって、まっこと(本当に)助けてもろうて来たぜよ。


雨の日、風の日、晴れた日、暑い日、寒い日、笑うた日、泣いた日。一日も腕から離れた事がないきに、まっこと(本当に)色んな事があったちや。


そうぜよ、思うたら、あれから24年経つ。


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