宇三郎の海

宇三郎の海


ひじいちゃんよ、ひじいちゃんの見た海はどんなんやったぜよ?


空を見上げたら、すっかり秋やけんど、こっちは見えゆうかよ?ひじいちゃんよ、当時の虎竹の里は細い曲がりくねった山道があるだけの、まっこと、陸の孤島みたいなところやったがやないかえ?


大阪から遙々瀬戸内海を渡り、高い山に囲まれた、お遍路さんも、こじゃんと(とても)難儀する、交通の難所とも言われたこの地に、ひじいちゃんは何を求めてやってきたがぜ?なんぼか、遠かったろう。どれっぱあ、時間がかかたろうか?どれっぱあ、しんどかったろうか?どれっぱあ、辛かったろうか?


けんど、ひじいちゃん、オマン偉いちや。熱いぜよ。一人でやってきて、ここを虎竹の里にした。あきらめんかった。この海から虎竹を船積みした、ひじいちゃんの見た海はどんなんやったぜよ?ワシも、何ちゃあ分かっちゃあせんけんど、ひじいちゃんみたいに、おじいちゃんみたいに、おやじみたいに、ここから同じ海を見るがぜよ。ほんでから、ワシも同じ海に漕ぎ出しよりますぜよ。


そうじゃあ。まっことじゃ。行き先らあは分かっちゃあせん。けんど、行った先に、何ちゃあ無くてもエイがちや。ひじいちゃんが見た、海がみたいだけながぜよ。


コメントする