宝船

雨模様虎竹の里


今日の虎竹の里は今にも泣き出しそうな空模様ぜよ。チロリアンハット言うがやろうか、コーデュロイの帽子をいっつもかぶっちょった。今でも目をとじたら、あの土場で竹を選りゆう姿がうかんでくるちや。虎竹の里の名士みたいな、おんちゃんやった。小さい頃から身内みたいに、


「ヨシヒロよ......。」


呼び捨てにしてくれる最後の山の職人やった。祖父とは仲が良うて、山仕事がない時らあはいっつも店で座っちょった。お別れ言うて靴を履きよったら、壁に丸窓があるやいか...。色あせて、こじゃんと(とても)古そうやちや。


「この家を新築の時、おじいさんから頂いたがみたいちや」


お家の方の言葉。分かっちゅうきに、その通りぜよ。今はもう、こんな凝った作りの出来る職人さんもおらんけんど、同じ、波を切ってすすむ船出の丸窓はワシくにもあるきに。


竹の宝船


けんど、この船は、ただの船や無いぜよ。宝船やちや。それも全部竹で出来た宝船じゃ。おんちゃんにピッタリやろう、どんな宝の土産話を積んで逝ったろう。今ごろ空の上で祖父と久しぶりに笑うて話ゆうろう。


宝


そんな事思いながら会社に帰りついたら、社員の初孫が遊びに来ちゃあるやいか。まっこと(本当に)可愛いぜよ。


「宝やにゃあ......。」


受け継がれていく生命。受け継がれてきた虎竹の里で116年の歴史。どうやって次の世代に残していくのか、ワシに何ができるのか。おんちゃんよ、おじいちゃんと日向ぼっこでもしながら、ゆっくり見よっとうせや。ワシはこれから、竹虎四代目になるがぜよ。


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