工場長の腕時計

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「おまん、なかなかエエ時計しちゅうにゃあ」


工場長の腕時計がふと気になって訪ねたがです。


「おっと、気がついたかえ」


工場長が誇らしげに話しだしました。竹の工場はホコリが結構舞うちょります。けんど、この時計はホコリに強い硬い竹の節にあたってもキズが付かん。衝撃らあにも平気なばあ丈夫。雨が少々降ったち外で竹を積みおろしするきに、完全防水じゃあないとイカン。おまけに薄暗い倉庫や、うっそうと茂る竹林じゃあち文字盤がハッキリ見える。話を聞きよったら、なかなかのモノじゃねえ。ほんで最後に、


「なんせ、SASが使いゆうきねえ...」


「なんつか!?SAS(サザンオールスターズ)?」


桑田さんが使いゆうかえ、そりゃあ、エイ!サザンファンのボクが言うと、


「違う、違う、SAS(イギリスの特殊部隊)やき!」


なるほど、軍用の時計かえ。それやったら、間違いないにゃあ。ブランド名は「nite」夜のナイトと、騎士のナイトとかけた造語らしいけんど、虎竹の里で働く職人にもピッタリの時計じゃあ。なんせ、山深い竹林にはいったらまわりに時計がないもんやき、自分の時計だけが頼りや。カラスがカーカー鳴き出したとか陽がだいぶかげってきたとか、だいたいの時間は分かるけんど、ボクも腕時計が壊れた時に終業1時間まちがえて、一緒に働きゆう職人さんに、こじゃんと迷惑かけたことを思いだしよりました。


「どこで買うたがで?」


「高知市内の正美堂ちや」


そんな訳で、さっそく店まで見に行っちょりました。おお、格好のえいミリタリーウォッチがいっぱいぜよ。ややっ!?これはチーフテン(イギリスの戦車)か?ガラスケースにはプラモデルもあって雰囲気もバッチリじゃ。まっこと、凝った時計屋さんがおったもんやけんど、なぬ!?この時計はワンタッチで方位磁石になる?たまげた、けんどこれやったら、竹林で迷うこともないにゃあ。


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