ある日、突然に知人から真っ黒なハンバーガーの画像が送られてきました。中に挟まっているのはサーモンでしょうか?真っ黒なバンズに、赤い色合いと緑の野菜、そして白いソースがチラリと見えていて思わず食欲をそそられます。実は、この画像の送り主は地元高知県の古い知人で、全くの異業種から食の世界に入りクロワッサンのお店を始めたハンサムボーイです。今回は、新たな高みを目指して、パン作りを学び直すために単身パリに渡ったというのは聞いていました。
ところが、知らなかったのですが、彼の入学しているのは100年以上の歴史を誇り、「美食界のハーバード」とも言われる、最高峰の教育機関である名門フェランディ・パリという料理学校だそうです。料理、製菓、パンなど幅広い分野で、基礎技術と革新性を重視した教育に魅かれて世界中から才能ある若者が集まる、国際的な学びの場から届いた真っ黒ハンバーガー。「黒」の正体は予想通り竹炭パウダー(bamboo charcoal powder)でした。
しかし、驚くのはこれからです。何と、この世界一と言ってもよい美食の街で、次世代を担うシェフたちが教材として使っている竹炭パウダーが、何を隠そう竹虎からお届けさせてもらったものだったのです!彼も、最初は出てきた竹炭のパッケージを見たら「虎斑竹専門店 竹虎」と書かれているのでビックリ仰天だったそう!それは、そうです、遠い異国の地で、まさか日本、しかも高知の片田舎の竹炭パウダーが登場なんて!?思わず手にして教室で叫んだのでないだろうか(笑)なんて勝手に想像しています。でも、一人で頑張っている中で、同郷の食用竹炭を見て興奮したのは間違いありません!
竹炭パウダーの最大の特徴は、その驚くべき細かさです。粒子径はわずか15ミクロン(0.015ミリメートル)しかありません。この微細な粒子のおかげで、食品に混ぜてもザラつきを感じさせず、滑らかな舌触りなのです。そして、もう一つシェフやパティシエの方々から支持されている重要な特性が、無味無臭であること。イカスミのように独特の風味を持たないため、素材本来の味を邪魔することなく、料理や菓子に深い黒色だけを加えることができます。この特性から「モノクロスイーツ」など、見た目のインパクトも大切にする現代的な料理やデザート作りに重宝されています。
さらに、竹が地中から吸い上げたカルシウム、カリウム、ナトリウム、鉄分などの天然ミネラル分を含んでいる点も注目されます。日本では古くから「炭職人に胃腸の悪い者はいない」と言われるなど、炭の持つ吸着性から健康維持に利用されてきた歴史があり、現代でも「チャコールクレンズ」や「デトックス」といったウェルネスという形で期待されています。
竹炭パウダーは、厳選された原料を使い伝統的な製法によって生み出されています。地元四国産の竹を使い、昔ながらの土窯を改良した竹炭専用窯で、熟練の職人が季節により、気温により、湿度により、積み重ねてきたカンと五感をフルに使って1000℃を越える高温で微妙に調整しながら焼き上げているのです。
そんな竹炭が、海外の食の世界に受け入れられ出したのはいつの頃だったでしょうか。若きパティシエの方が、様々な新しい試みをされている実験的な工房にお伺いさせてもらった事もありました。
以来、日本の高品質な竹炭パウダーは、そのユニークな特性から海外でも注目され食材に活用されています。ボク自身も現地に何度も足を運び、多くのシェフが竹炭を使ったバラエティ豊かな料理やスイーツを頂きました。竹虎のウェブサイトでも、それらのレストランでの使用実績を一部ご紹介していますが、日本の伝統素材が海外の食文化と融合し、新たな価値を生み出しているのは予想外の喜びでもあります。
料理の世界で「黒」、特に竹炭が注目される最大の理由は、やはりその圧倒的な視覚的インパクトです。深くマットな黒色は、料理やデザートにモダンで洗練された印象を与えます。そして無味無臭という特性が、料理の味や香りを変えずに色彩だけを加えられるため、料理をされる方にとっては価値ある素材なのです。フェランディ・パリで学んだ彼も、帰国したらクロワッサンも更に進化して真っ黒なパンも誕生しそうで楽しみにしています。
日本唯一の虎竹を守り続けてきた竹虎。今年で創業131年となる、竹への思いと取組みから始まった食用竹炭パウダーが、遠くパリの名門校で新たな創造のお手伝いができている。この話を聞いたとき、ボクは伝統と革新、食を通じた文化交流の繋がりに胸が熱くなりました。
今回のフェランディ・パリでの活用は、美しい日本の自然と、伝統の竹炭職人の技とがメイドイン・ジャパンの品質となり、少し大げさかも知れませんが世界最高峰の料理界で認められたのだと思います。古来より日本人の生活に寄り添ってきた竹の計り知れない可能性と、それを未来へ繋ぐ人々の営みに、改めて思いを馳せて頂けたら嬉しいです。