バレンで思い出す、虎竹の里の鯉のぼり

バレン


が使われる祭事や神事は、日本国内に800カ所を超えると聞いた事がある。それだけ竹は、人の暮らしに密接に関係し、様々な伝統や文化に影響を与えてきた。祭事などとは少し違うけれど、たとえば熊本では鯉のぼりを立てる竹の先端に、バレンと呼ばれる竹編みの飾りを取り付けている。


バレン


バレン


このような風習は、その地域によって少しづつ異なっていて面白いが、竹が使われているのを見る度に日本人と竹との結びつきを思うのだ。


竹虎の鯉のぼり


高知県では、鯉のぼりと共にフラフと言う旗を揚げる。これは、何でも英語のフラッグから来たそうだから、歴史はムチャクチャ古い風習ではないと思う。それにしても、この大量の鯉のぼりやフラフは、どうだろうか?手前には、竹が写っているけけど、これは当時の自分のボロボロの実家と倉庫の写真だ。竹虎四代目の誕生を祝して、取引先様や地域の皆様から頂いたものだと言うから、虎竹の里の自分達への期待の高さを身にしみて感じる。




山や畑や海で鍛えられた腰籠と、YouTube動画特別販売

新しい腰籠


腰籠は便利なので愛用者は案外多く、お陰様で結構お問い合わせをいただいている。そこで、新しく腰籠を用意する事にして先日ウェブサイトにも掲載した。手頃な使いやすそうなサイズ感にしたが、実はこの籠の良さは手に取った瞬間でないと分からない。とにかく堅牢なのだ、力自慢とお父さんが両手で押してみてもビクともしない(笑)。


腰籠


時期の良い竹材を使い、厚みのある丈夫な竹ヒゴで編み上げるからこそ強く、耐久性の高い竹籠になる。これらの竹細工は、実際の山や畑や海の現場で、使い手によって鍛え上げられた本物の籠なのだ。


腰籠、竹虎四代目(山岸義浩)YOSHIHIRO YAMAGISHI


しかし、簡単に新しい籠と言っても実は細かい作りやサイズなど、ひとつの籠が完成するまでには数個のサンプルが出来たりするものだ。そんな事が重なって、数十個ものハンパとなって店頭の片隅や倉庫に眠っている、せっかくの一級品なのでもったいなさずきると最近特に思うようになった。そこで、年内にはYouTube動画で特別販売してみたい、ブログをご購読いただいている皆様は是非ご期待ください。



山里の名人竹箒に、孟宗竹を何本使う?

山里の名人竹箒


職人たちが惚れ惚れすると言う、山里の箒名人の竹箒が出来上がった。8月から9月にかけての暑い盛りに伐り倒した孟宗竹の竹穂を集め、竹柄に使う五三竹は少し遅らせて川岸に伐りに行く。近くの良い竹は取り尽くしてしまって今回は川の上流まで登って行ったそうだ。


孟宗竹


さて、そこで皆さんに質問してみたい。ここに35本の竹箒があるのだけれど、この箒を製造するのに孟宗竹は何本必要だとお思いだろうか?孟宗竹は日本では最大級の竹で、20数メートルの高さがり、直径も10センチを超える大きな竹だ。


竹箒製造


少し意地悪な質問かも知れない(笑)。箒に使う竹穂など想像もできないと思うが、実は何と80本もの孟宗竹を伐り倒して竹穂を集めなけばならないのだ!竹の枝も元に近い下の部分、半分は硬くて質が悪く使用できず、残り半分の竹枝から厳選して使用している。せっかく集めた竹材も、気に入らずにこれだけ大量に使わずに焚物になる。


竹箒製造


まさに、箒の先端にこだわり抜いている。手入れされていない竹林での、孟宗竹伐採は大変だから、ついつい竹枝がもったいないと思ってしまうのだが、そこに名人は妥協がない。


箒の柄


乾燥するほどに硬くなる、箒柄の五三竹の太さにもこだわりがあって、少し細めに思うけれど、これくらいの竹材が割れにくい。竹の曲がりは一本づつ、畑の横で火炙りして、手矯めしているからコゲ目のあるもの、ないものがある。


孟宗竹枝


そう考えれば、竹の穂も貴重品だ。孟宗竹の竹林で枝打ちした後に、綺麗にまとめて積み上げられている理由がお分かり頂けるかと思う。





2019年からお会いしたかった本田聖流さん

本田聖流さんエルメス


エルメス表参道店に入って二階へ続く階段を見上げると、本田聖流さんの作品が飾られている。もしかすると、オブジェがあるけれど一体何で創作されているのか?お分かり頂けていない方もいるのかも知れない。それくらいモダンで、竹とは遠いように感じられるが、ご本人が「竹が自分で形になった」と話されるくらい、竹のしなやかさ、伸びやかさ、軽やかさを活かした作品だと思う。


ケ・ブランリー美術館(Musée du quai Branly)「空(くう)を割く 日本の竹工芸」


本田さんの作品を、初めて実際に拝見したのは、2019年にパリのケ・ブランリー美術館で開催されていた「 空を割く 日本の竹工芸」だった。


ケ・ブランリー美術館(Musée du quai Branly)「空(くう)を割く 日本の竹工芸」


出発の数日前に、偶然にも一枚の新聞の切り抜き記事を頂いて本田さんにお会いしたくなった。


本田聖流さん、竹虎四代目(山岸義浩)


鹿児島という所は、明治維新から重要な役割を果たしてきた地域だ。戦国時代まで遡っても飛び抜けた人物を生んできた興味のつきない県でもある。孟宗竹が大陸から伝わった土地であり、孟宗の竹林面積が日本一という事で、竹の本場とも言える場所だが、本田さんはそんな鹿児島のご出身だった。若い頃からの苦労などが記事に書かれていたので、ボクが竹と関わる中で疑問に思っている事の答えをご存知なのではないか?そんな期待をずっと持っていた。


竹藪


高知の古老の職人が、竹ざるの事を「サツマ」と呼ぶお話しは何度もさせてもらっている。土佐と薩摩の竹文化の交流を、伺い知る事ができるけれど、まだまだ不思議に思う事が多い。お忙しい本田さんに時間を取っていただいて、ようやくお会いする事ができ、祖父や父と親交の深かった渡辺竹清先生や塩月寿籃さんと三人でゴルフに興じる仲良しと知り親近感を持った。


けれど、本田さんが若かった頃の鹿児島の竹については、あまりご存知なかった。独特の竹文化や、九州、四国との技術交流など、竹籠を触れば様々な推察が頭をよぎるけれど、本当のところは藪の中だ。



国産竹炭100%詰め込んだクッション

竹炭クッション、bamboo charcoal


竹炭枕をリビングでもご愛用いただいているお客様を知ってから、それなら少し大型のクッションタイプを作ったら良いのではないか?そう考えて作ったのが国産の高温竹炭を18リットルも詰め込んだ竹炭クッションだ。


竹炭クッション、bamboo charcoal


製造前にも色々と試作と試用を繰り返したが、販売開始した今でもお客様の声なども頂戴しながら規格は柔軟に変更したいと考えている。現在、販売中の竹炭まくらは竹炭が10リットルだから比較すると1.8倍の容量が入っている。


竹炭クッション


竹炭クッション


炭は昔から神社仏閣などにも多用されてきた。消臭や湿度調節の機能はもちろんだが、埋炭等でいわゆるイヤシロチと言われる澄んだ空気感があり、リラックス効果を感じられる方も多い。本能的に心地よいものを知っているのか室内のペットが竹炭枕から離れないと聞いた事もある。


孟宗竹


いずれにしても、竹林の心地よさは毎日通っても思うところ。そんな竹を皆様の身近に置いて生活に役立てていただくのに竹炭は最適だと思っている。




ところで、このYouTube動画をご覧になられたでしょうか?竹炭の調湿能力は、竹の専門家である自分達でもビックリ!ご存知ない方は、是非一度ご覧いただけると嬉しいです。



古い白竹麻の葉脱衣かご

白竹麻の葉脱衣かご


納屋から随分と古い時代の白竹麻の葉脱衣籠が出て来た。実は、この脱衣籠は編んでいた職人さんが仕事を退かれて、現在では廃版となってしまっているものだが、ロングセラーだったから、つい数年前まで店頭にあった籠と何ら変わらない形だ。


白竹麻の葉脱衣かご


ただ、初めての方なら驚くほど色合いが違っている。真竹を晒した白竹を使っているので、元々はこのように真っ白い竹材だったのだ。


白竹麻の葉脱衣かご


青々とした竹が熱湯で油抜きされ、天日干しして生まれる白い竹肌は魅力的だ。多くの方に馴染のある色目なので、竹と聞けば、このような風合いを思い出される方もいるかも知れない。


白竹麻の葉脱衣かご


この脱衣籠は、少し時代が新しいモノと編み上がったばかりのモノを比べている所だ。時間の経過によって深まる色づきは、季節の紅葉のように移ろいでいく。竹の楽しみのひとつだから、多少高価だと感じられても良い物を手にしてもらいたい。





真竹コンテナ手提げ籠バッグできました2024

コンテナ手提げ籠


前回、動画を皆様にご紹介して以来、沢山のお問い合わせを頂いている真竹コンテナ手提げ籠バッグが編み上がった。とは言え、真竹を伐り始めたばかりで頃合いの太さの竹が少なく、出来たと言っても20数個だけだ。明日には持ち手を取り付けてお届けできる形になると思うので、来週早々に販売できるように準備したいと思う。


コンテナ手提げ籠


そもそもコンテナ籠は、堅牢さで日本中どこででも多用されていた御用籠が元になっている。物流でも鍛え上げられた竹編み角籠の最強DNAを受け継ぐ籠だけに、本当にタフで頼りがいのある逸品だ。お手元に置いてガンガンご愛用いただきたい。





孟宗竹と真竹の狭間に

孟宗竹と真竹


車で知らないところを走っていても、気になる竹林ではついつい立ち停まってしまう悪いクセがある。この竹林もそうだ、何という事はない何処にでもありそうな、手入れされていない少し鬱蒼とした竹藪が気になってハザードランプを付けた。


孟宗竹


暫らくは人手が入っていない様子の、立ち枯れした孟宗竹が目立つ普通の竹藪だ。このような場所にくると、やはり蚊が多い、さっそく耳元に嫌な音が聞こえてきた。同じ竹林でも、手入れされた虎竹の竹林などでは蚊がほとんどいない。




そうそう、竹酢液の蚊除け効果を実証しようとして竹林に入ったものの、あまりにも蚊がいなくて実験を中止したYouTube動画があるくらいなのだ(笑)。


真竹


まあ、それはさておき。孟宗竹の竹藪の向かい側には同じ竹かと思いきや、立派な真竹が伸びている。太い真竹の材料が無くなって編めなくなる籠もあるので、このサイズの真竹をみると少し伐りたくなってくる。


孟宗竹と真竹の竹林


さて、この孟宗竹と真竹の間には一本の舗装された道路が種類の異なる竹を分けるように通っている。竹は成長力が強く、根が縦横無尽に伸びて森林を侵食すると言われるけれど、このような道を境にしてお互いの棲み分けをしている。もっと小さな人が歩けるくらいの道であっても案外お互いが侵食する事はないので不思議なものだ。





射手のお客様自らが形を整えた流鏑馬笠

流鏑馬笠、竹虎四代目(山岸義浩)YOSHIHIRO YAMAGISHI


流鏑馬(やぶさめ)をテレビ等でご覧になられた事のある方も多いと思う。馬に乗って猛スピードで駆けながら弓矢で的を射るという、武士の嗜みとして行われてきた伝統的な武術のひとつだ。近年では、大きな寺社から地方の小さな神社まで、全国数カ所かで神事として奉納されているようだ。




さて、その際に射手が被る流鏑馬笠を復刻したのは、別に流鏑馬に関心があったからでも、誰かに頼まれた訳でもない。今では輸入品ばかりになってしまった竹笠だが、昔から日本で編まれてきた本物の竹笠の技術を、少しでも繋いでいければという想いからだ。せっかく細々と遺された技も、実際に使っていないと錆びついてしまう。もしかしたら、このような笠を復刻しても見向もして頂けないかも知れないが、最後の一閑張り職人の工房に、寂しく忘れられていた笠を手にした時、どうにか再現したい気持ちになった。


流鏑馬笠生地


しかし、その甲斐あって、国産の竹笠ならではの良さを活かせる日がやってきた。今回の流鏑馬射手の方は、ご自身で笠の形を少し別の形に仕立てられたいと希望されていた。流鏑馬には、それぞれの流派があり、笠の形も微妙に異なっているようなのだ。


流鏑馬笠塗


柿渋と漆で仕上げた後では硬くなってしまい、形を自分好みにする事はできない。そこで竹編み素地のままで提供させていただく事になった。


流鏑馬笠、竹虎四代目(山岸義浩)


流派に合わせた流鏑馬笠


お客様が手直しした流鏑馬笠


竹虎の流鏑馬笠と、射手であるお客様の笠とはこれだけ形が違う。また、柿渋や漆を塗布する段階でも色合いが異なっている。


手直し流鏑馬笠


笠を上から見た形も、何となくスピード感が伝わってきそうな格好の良いフォルムに仕上がっている。


流鏑馬笠


何を隠そうボクも高校時代は弓道部にいた事もあるので、弓の扱いには多少慣れているが、二つを比べた時に笠のツバは反り上がって狭い方が射やすいのではないかと思う。流鏑馬は伝統行事であると共に、ちょっとしたミスで大怪我をしてしまう事もある激しいスポーツだ。それだけに、使用する道具は見栄えは当然だが、使いやすく機能的なものが求められる。竹編みの技の継承を考えるのなら、更にブラッシュアップしたモノ作りをしていく必要があると思っている。





游文富(Wen Fu Yu)氏、「竹の波」

游文富(Wen Fu Yu)氏「竹の波」


早朝の雨の中、カーブの続く山道を登って行くと霧だ。小鳥たちも寒さで震えているのだろうか、物音ひとつしない静かな谷間に游文富(Wen Fu Yu)さんのインスタレーションがあった。この大きな建物全体を竹編みで囲ってしまっているのか、これは凄い。


游文富(Wen Fu Yu)氏「竹の波」


近づいて見てみると高さもあり、ずっと向こうまで続く竹の壁が大迫力だ。長野県大町市に開催されている北アルプス国際芸術祭を、たまたま知って初めてやってきたけれど雨に煙る作品も幻想的で素晴らしい。


游文富(Wen Fu Yu)「竹の波」


游文富(ヨウ・ウェンフー)さんは、この創作のために竹編みのシートを600枚も台湾から運んで来られたそうだが、何とその竹編みは自分が先日お伺いしたばかりの竹山鎮で作られたそうだ。


游文富(Wen Fu Yu)「竹の波」


日本国内では、これだけの巨大な竹アートを見る機会はないので一体なんだろうか?と思ってしまう。しかし、游文富さん自身は様々な創作活動の中で、このような竹を使う大型作品は何度も経験されているようだ。


游文富(Wen Fu Yu)「竹の波」


游文富(Wen Fu Yu)「竹の波」


竹編みシートは台湾から持ち込み、地元の皆さんが伐採された竹材が骨組みに使われている。そう言えば、このような大きな作品を拝見すると、10年近く前に見た新潟の夢を思い出す。作者の王文志(ワン・ウェンヂー)さんも台湾の方だった、竹を使った大きな創作が多いお国柄なのだろうか。


游文富(Wen Fu Yu)「竹の波」


游文富(Wen Fu Yu)「竹の波」


竹ヒゴ


竹編みは、しなやかで竹細工に使いやすい台湾真竹(桂竹)が使われている。これだけ多くの本数なのに丁寧に竹ヒゴにされていた。


游文富(ヨウ・ウェンフー)「竹の波」


游文富(ヨウ・ウェンフー)「竹の波」


今回、運よく游文富さんの作品に触れる事ができて、台湾に改めて興味が沸いた。